常世には二十九の観測がいます。
ここにいるのは、観測にならなかった二十四です。
一覧に並ぶ一体ずつは、はじめからその形で在ったように見えます。そうではありません。
鱏(026)は七度作り直した末に出た一体で、その七度は、いまも走る形で残っています。
一体の形は、捨てた案との関係だけで決まっています。捨てたものを取り除くと、
なぜこの形なのかが消えます。
一覧で点を減らしたときに起きるのと、同じことです。
左が鱏です。右は、鱏になる前にいた三つ。
形は同じで、速さだけが違います。選んだのは七度目の真ん中でした。
数を見ると、外していたのは翼の打ち方ではなく、全体の漂い方だったことが分かります。
六度目は、いまの鱏の四倍あまり速く漂っています。翼の速さのほうは、はじめから合っていました。
観測 026鱏
移動 0.210px ・ がくつき 0.0022 ・ 残像 0.88 ・ 20秒でひと巡り
第六次D1
移動 0.916px ・ がくつき 0.0373 ・ 残像 0.88 ・ 5秒でひと巡り
翼を前から後ろへ波が伝わる。翼端ほど遅れ、振れが大きい
第七次E1
移動 0.272px ・ がくつき 0.0043 ・ 残像 0.88 ・ 20秒でひと巡り
ひと打ち五秒
第七次E3
移動 0.228px ・ がくつき 0.0024 ・ 残像 0.88 ・ 20秒でひと巡り
ひと打ち十秒。実物より遅い
直線の背骨に横波を乗せた六つ。当時これを「骨格の置き方が違う」として、全部外しました。
この判定は、あとで撤回しました。水母は、まさに直線に近い背骨に波を乗せた一体で、
本人が「生き物に一番近い」と挙げた三つの一つです。
この六つに本人の評はありません。こちらの判断だけで外しています。
第一次M1
移動 1.258px ・ がくつき 0.0489 ・ 残像 0.86 ・ 5秒でひと巡り
等速の正弦。遅れだけで動かす
第一次M2
移動 1.309px ・ がくつき 0.0597 ・ 残像 0.86 ・ 5秒でひと巡り
時の進み方を歪めて、ゆっくり溜めて速く放つ
第一次M3
移動 1.365px ・ がくつき 0.0681 ・ 残像 0.86 ・ 5秒でひと巡り
尾が速く振れたときだけ前へ出る
第一次M4
移動 1.201px ・ がくつき 0.0465 ・ 残像 0.88 ・ 10秒でひと巡り
ひと巡りに一度だけ強く打ち、あとは減りながら鳴り続ける
第一次M5
移動 0.855px ・ がくつき 0.0250 ・ 残像 0.86 ・ 5秒でひと巡り
曲がる合図が、頭から尾へ遅れて伝わる
第一次M6
移動 1.238px ・ がくつき 0.0518 ・ 残像 0.86 ・ 10秒でひと巡り
泳ぐ拍と、それより遅い息が、同時に走る
骨格を、全体が回る形に置き換えました。三つとも、当時の八項目を全部通っています。
通ったのに採らなかったのは、生き物ではなく回る飾りに見えたからです。
八項目は全部通ったが、生き物としては三十点
ここで、測り方そのものを二度直しました。房の動きが三案とも動いていないと出たのは、
測り方の誤りでした。測れないものを、無いものと読み違えるところでした。
第二次A
移動 0.896px ・ がくつき 0.0183 ・ 残像 0.74 ・ 10秒でひと巡り
角度が体の位置の二乗で進む。半径はほぼ真っ直ぐ伸びる
第二次B
移動 1.605px ・ がくつき 0.0591 ・ 残像 0.74 ・ 10秒でひと巡り
角度の進みがS字。端で遅く、中ほどで速い
第二次C
移動 1.060px ・ がくつき 0.0320 ・ 残像 0.74 ・ 10秒でひと巡り
巻きの量そのものが、時間で息をする
一体だけを虚空に置くと標本に見え、数体いると生き物に見える——それに気づいて、
個体を増やしました。角度の波・領域分け・入れ子の三角関数も入れています。
動きが早すぎる。一番右が少しいいが、ごちゃごちゃしすぎ。
パターンを脳が認識できなくて生き物に見えない
第三次A2
移動 0.878px ・ がくつき 0.0290 ・ 残像 0.74 ・ 10秒でひと巡り
三個体。頭と胴で規則が違い、角度そのものが波打つ
第三次A3
移動 1.041px ・ がくつき 0.0447 ・ 残像 0.74 ・ 10秒でひと巡り
二個体。領域の差を強くし、投影も強く潰す
第三次A4
移動 0.995px ・ がくつき 0.0204 ・ 残像 0.76 ・ 10秒でひと巡り
五個体。小さく、巻きが強い。ばらけた拍で、それぞれ別の道を泳ぐ
重なりと、房の深さと、点の多さ——「ごちゃごちゃ」の原因を三つに分けて直しました。
この世代に評はありません。見せずに次へ進んでいます。動画も撮っていません。
七度のうち、ここだけが誰にも見られていない世代です。
いま走らせると、ひと巡りに四十秒かかります(作品は二十秒までと決めてあります)。
一つは、いまも点が六十五個ぶん欠けます。小数乗の底が負に落ちる、この作業で三度踏んだ穴です。
直さずに置いてあります。直すと、捨てたときのものではなくなるからです。
第四次B1
移動 0.129px ・ がくつき 0.0027 ・ 残像 0.7 ・ 40秒でひと巡り
三個体。互いに触れない位置に置く
第四次B2
移動 0.289px ・ がくつき 0.0060 ・ 残像 0.7 ・ 40秒でひと巡り
大きく一体だけ。ごちゃつきの原因が数なのか作りなのかを分ける対照
第四次B3
移動 0.544px ・ がくつき 0.0035 ・ 残像 0.72 ・ 40秒でひと巡り
五個体。小さく、それぞれの縄張りをゆっくり巡る
体を頭・胴・尾の三つに切り替えで分けました。なめらかに変えるのではなく、
境目で筋をゼロまで絞ります。節ができて、部位が別物に見えます。
全体の回りを半分に落としました。速すぎたのは全体の回りだけで、体の波は合っていた——
そう測って直したのに、次の世代で同じ見落としをします。
回転してる感じは違うかな。すでにある繭や漣みたいな繊細な点と滑らかな動きが生き物に一番近い。
実際の生き物をベースに、それを再現する方が生き物っぽくなるかも
第五次C1
移動 0.231px ・ がくつき 0.0031 ・ 残像 0.72 ・ 20秒でひと巡り
三個体。それぞれ頭・胴・尾がはっきり分かれる
第五次C2
移動 0.472px ・ がくつき 0.0064 ・ 残像 0.72 ・ 20秒でひと巡り
大きく一体。部位が読めるかどうかを、いちばん見やすい形で試す
第五次C3
移動 0.342px ・ がくつき 0.0050 ・ 残像 0.72 ・ 20秒でひと巡り
二個体。部位の差をいちばん強く付けた
方針を撤回して、実在の泳ぎ方から作り直しました。架空の巻き物をやめています。
ここで漂い方の係数を、標準の一・二・三のまま置きました。
五度目で「速すぎるのは全体の動きだけ」と測って直したのに、新しい式で元へ戻しています。
同じ見落としを二度しました。
左のもの(エイ)はマシかな。ちょっと動きが早すぎる。元のもののようにゆったり
第六次D1
移動 0.916px ・ がくつき 0.0373 ・ 残像 0.88 ・ 5秒でひと巡り
翼を前から後ろへ波が伝わる。翼端ほど遅れ、振れが大きい
第六次D2
移動 0.943px ・ がくつき 0.0384 ・ 残像 0.88 ・ 5秒でひと巡り
外套は硬い。鰭を波が伝い、十本の腕が遅れて従う
第六次D3
移動 0.949px ・ がくつき 0.1303 ・ 残像 0.86 ・ 5秒でひと巡り
体はほとんど止まり、背鰭だけが速く震える。止まっている部分があるから、震えが生きて見える
形は一切変えず、速さだけを三段にしました。どこが速すぎたのかを分けて測るためです。
翼のひと打ちは、はじめから合っていました。四倍速かったのは漂い方だけでした。
七度のあいだ、本当の原因はここにありました。
真ん中が選ばれて、鱏(026)になりました。
第七次E1
移動 0.272px ・ がくつき 0.0043 ・ 残像 0.88 ・ 20秒でひと巡り
ひと打ち五秒
第七次E2観測 026「鱏」になった
移動 0.210px ・ がくつき 0.0022 ・ 残像 0.88 ・ 20秒でひと巡り
ひと打ち六・七秒。これが鱏になった
第七次E3
移動 0.228px ・ がくつき 0.0024 ・ 残像 0.88 ・ 20秒でひと巡り
ひと打ち十秒。実物より遅い
一度書いて、測って、間違いだと分かった規則が二つあります。
「直線の背骨からは生き物は出ない。全体を回さなければならない」と書きました。
水母は、まさに直線に近い背骨です。
「残像は薄くしろ。濃いと筋が溶ける」と書きました。
生きて見える三つは、全部、残像が濃いものでした。溶けることが、繊細さを作っていました。
どちらも同じ間違い方をしています。手本を分解して法則を立て、自分たちの当たりを測らなかった。
片方だけ測ると、当たっている理由を「無いもの」として法則に書いてしまいます。
滑らかさで比べると、試作のほうが上でした。だから滑らかさは差ではありませんでした。
差は、回っているかどうかと、残像の濃さでした。
ここに出ている二つの数は、どちらも式から直に測ったものです。
移動は、一コマのあいだに点が動いた長さの平均です(画は四百の座標で、一コマは一秒の六十分の一)。
がくつきは、その動きがどれだけ急に変わるかの平均です。
同じ物差しを作品にも当ててあるので、捨てた案と作品を横に並べられます。